1:歯を見せる
発声において歯を見せて声を出すことは、とても重要です。
例えば低音では、下の歯を見せることが重要になります。
これはチェストボイスを使って発声するからなのですが、チェストボイスというものは胸部共鳴を起こす発声方法です(チェストボイスに関してはSession8をご参照下さい)。
上咽頭での共鳴はあまり無いので、音は低い周波数が多量に出ています。
実はこれは下の歯がしっかり見えていないと低音は抜けて行かないということを意味します。
低い周波数のチェストボイスは、歯を見せることで唇という障壁を取り外し、声が前に出て行く道を作ってあげないと発声は難しいのです。
低音は舌の上を伝って口外へ出て行きます。
とにかく、下の歯を見える状態にすることが大事です。
高音では高い周波数の音が多量に出ています。
低音のチェストボイスとは真逆であり、上の歯を見せてあげれば声は抜けて行きます。
周波数など難しい話は置いておいたとしても、皆さんに理解して頂きたいのは「低い音は舌を伝い、高い音は上顎を伝うもの」だということです。
ただ今後ボイストレーナーを目指す方々の場合は周波数とは何か、ということも深く理解して頂きたいです。
ここまでのお話で、歯を見せることは重要だということは十分ご理解頂けたと思います。
歯を見せる重要性は他にもあり、表情の豊かさを表わすバロメーターでもあります。
表情が豊かなボーカリストは、例えばピッチが不安定でも、リズムがずれていても、リスナーや聴衆に対し格好が付きます。
また歌っていて歯が見えるぐらいに表情豊かなボーカリストには、メッセージ性を強く感じます。
これは歌だけではなく、ナレーションや役者などの分野でも同様です。
主な声の仕事の現場では表情が豊かな表現者が求められます。
「魅せる」という意味でもしっかり歯を“見せる”ようにボイストレーナーは生徒へ指導して下さい。
2:母音「A(ア)」で発声練習を行うことの重要性
母音「A」とは「ア」の意味です。
本Sessionにおいては以後、母音「I」は「イ」、母音「U」は「ウ」、母音「E」は「エ」、母音「O」は「オ」という意味とします。
さて、なぜ「A」の発声が重要なのでしょうか?
それは全ての発声の基本は「A」にあるからです。
電車の中で口を空けて居眠りしている状態、喫茶店でボーッとしている時の口の状態は基本全て「A」です。
要するに力が抜けていて顎が丁度良く開いた状態なのです。
歌はどれだけ力を抜けるかが重要ですから、「A」の発声が重要であることは当然です。
さらに舌の位置を定着・安定させるためにも重要です。
Session3の共鳴でも説明しましたが、「A」の発声の条件として、
1. 舌の先端が下の歯の先端裏側にくっ付いている
2. 舌全体が下の歯よりも上に浮かない
3. 舌が滑らかに安定している(真ん中が凹んだり、盛り上がったりしない)
4. 舌根から舌の先端にかけて、滑り台のように滑らかに舌が下がっている
以上を挙げていました。
他のI/U/E/Oでも、この基本フォームを軸に行います。
例えば「I」の発声でも舌の先は下の歯に触れなければなりません。
「A」の発声で舌が安定すれば、他の言葉でも安定させられるものと考えるのが当連盟の方針です。
まずは「A」の発声で共鳴が出来るようになって下さい。
そして“抜ける声”を理解して下さい。
母音で一番大事なのは、「A」です。
しかしSession13にある『ボイスポジション』を考えると、必ずしも母音「A」を集中的にやらなければ、発声能力が初期段階でレベルアップ出来ないとは言い切れないことも、同時にご理解下さい。
3:母音「A(ア)」行の発声方法とは
1. 舌の先端が下の歯の先端裏側にくっ付いている
2. 舌全体が下の歯よりも上に浮かない
3. 舌が滑らかに安定している(真ん中が凹んだり、盛り上がったりしない)
4. 舌根から舌の先端にかけて、滑り台のように滑らかに舌が下がっている
5. 歯と歯の間隔は小指一本分ぐらい開ける(脱力してあんぐり開いた状態)
4:母音「I(イ)」行の発声方法とは
1. 舌の先端が下の歯の先端裏側にくっ付いている
2. 歯は完全に閉じている状態(歌っている時は必ずしも閉じる必要はないですが、基本を学ぶために閉じて下さい)
3. 舌の両端を上顎に付ける
4. 舌の奥~真中~先端にかけて、舌と上顎の間にしっかり空洞を作って声が抜ける場所を確保する
5. 唇をしっかり横に開ける
5:母音「U(ウ)」行の発声方法とは
1. 舌の先端が下の歯の先端裏側にくっ付いている
2. 舌全体が下の歯よりも上に浮かない
3. 舌が滑らかに安定している(真ん中が凹んだり、盛り上がったりしない)
4. 舌根から舌の先端にかけて、滑り台のように滑らかに舌が下がっている
5. 歯と歯の間隔は小指一本分ぐらい開ける
6. 唇をすぼめる
要するに「U」の発声は「A」の発声に上記“6”を付け加えただけです。
実は「A」の発声とあまり変わらず唇の形が違うだけです。
重要なことは、母音は全て声の抜けです。
声が「A」のように抜けているかどうかをしっかり確認して下さい。
6:母音「E(エ)」行の発声方法とは
1. 舌の先端が下の歯の先端裏側にくっ付いている
2. 発音上、舌の真ん中が下の歯よりも上に浮くが、なるべく力まない
3. 舌中央部は少し盛り上がるが、舌中央部から舌先端にかけては、力まず滑らかに舌が下がっている
4. 歯と歯の間隔は小指一本分ぐらい開ける
5. 唇をしっかり横に開ける
「E」については、「A」に比べるとボイスポジションの取っ掛かりとしては良いのですが、口腔内の形のメソッドの基本を語る上では生徒には解りづらい可能性が高いです。
あくまでも共鳴の取っ掛かりとして「E」を教えるとスムーズです。
7:母音「O(オ)」行の発声方法とは
1. 舌の先端が下の歯の先端裏側にくっ付いている
2. 舌をなるべく硬直させない(舌の真ん中に向かった力が働きやすいので注意する)
3. 歯と歯の間隔は小指一本分ぐらい開ける
4. 唇をすぼめる
5. 顎にはなるべく力を入れないようにする
8:タンギングについて
タンギングとは、舌を使って空気の流れをコントロールし、発声にメリハリや強いアタックを付けることです。
タンギングは、舌を使う楽器全般に使う音楽用語です。
例えばトランペットなどもタンギングを使用するのですが、本ガイドラインでは発声に特化したタンギングを解説します。
「A・I・U・E・O」。
これら母音に対し、「Ka」「Ta」…などは、KやTの子音が付きますからタンギングが必要になります。
しっかりタンギングが出来ているかは、アタックが有るか無いかの判断をするのに非常に大切なことです。
タンギングの練習方法で一番行い易いのは、『ラララララララ・・・』と30秒間発声し続けること。
この時に声が篭り、段々『ナナナ・・・』という風に、発声自体に変化が出てきたら失敗です。
器用にこなすのは中々大変です。
タンギングの練習は、発声状態を整える為にも重要な役割を果たします。
個人個人が研究を重ね、タンギングの練習を日々工夫していくことが糧になります。
※『ラララ』でのタンギングの練習は顎の力を抜く練習にもなります。
9:表情筋のストレッチ
「A・I・U・E・O」を1分間繰り返して発声練習して下さい。
この発声は様々な音程で練習して、共鳴や声の抜けなどを意識して行って下さい。
この練習によって表情筋を鍛えることが可能です。
リップトリルなどが出来ない場合の人にも効果的です。
リップトリルは表情が柔らかい人が出来るものですが、表情の筋肉を上手く使いこなせないと出来ないという面もあります。
「A・I・U・E・O」の1分間運動は、単純ですが効果的です。
毎日練習すると、大きな効果を発揮します。
気を付けるべきは、口を大きく開け過ぎないことです。
それより「A・I・E」は唇を横にしっかり広げ、「U・O」は唇を極端にすぼめるぐらい大げさに表情を動かすことに重点をおいて下さい(いずれも共鳴や抜けも同時に出来ていないといけません)。