ボイストレーニングレッスンの際によく言われている表現で、『歌を歌う時はお腹からしっかり声を出しましょう』と言う表現。
こういったフレーズ、レッスンのご経験がある肩であれば1度は耳にしたことがあるかもしれません。
「お腹から声を出す」について
結論から言えば、この表現は素人目線での表現方法であり、プロの現場ではまず使いません。
つまりはボイストレーニング初心者の方に向けた言い方であり、レコーディングのディレクションであったとしても、こういうような表現を使っているプロデューサーやディレクターを見る事はまずありません。
筆者がこれを考察するにあたって、思うところはただ1つだけです。
それは昭和の頃に遡りますが、メディアでお腹から声を出しましょうと言う表現が出現したことに起因します。
メディアでしきりにお腹から声を出すということが言われるようになってから、現代に至っても「お腹を使って声を出しましょう」と言う表現が定着したように思えます。
「お腹から声を出す」ってなんだろう?
さて、それでは、お腹から声を出すということがボイストレーニングの現場で生徒さんからどういうものですか?と、具体的な説明を求められる質問を受けた場合。
その場は、毅然と腹式呼吸の方法について詳しく説明してあげる必要があります。
曖昧にして、「お腹に力を入れて声を出すんだ!」と言うような表現方法は避け、まずは腹式呼吸のメカニズムをしっかりと理解してもらう必要があります(ボイストレーニングガイドラインのセッション1とセッション2を参照下さい)。
Session1【腹式呼吸の必要性】
Session2【腹式呼吸の練習方法】
お腹に力を入れるときは、声を出す時だけです。
おへその下(丹田)に力を入れて、多少お腹を中に押し込む力を働かせます。
同時に、肋骨と骨盤の間の骨の無い部分…つまり、腹横筋部分を横にせり出させる。
この力の使い方は、咳払いをするときの力の使い方、または笑っているときの力の使い方に似ています。
広い講堂やホールなどで咳払いや笑い声が響いていくのは腹式呼吸による発声によるものです。
特に今申し上げたような咳払いや笑ったときの感覚と言うのは生徒さんにはとても解り易いもので、まずは理屈を説明した上で実際に咳払いしていましょうと話を進めていくと、大体の生徒さんは理解してくれます。
このメソッドをしっかりと生徒さんにわかりやすく説明してあげる必要があります。
「お腹から声を出す」 事をより深く考察してみる
もう少し掘り下げて「お腹から声を出す」事について考察してみましょう。
例えば学校の応援団の発声を考えてみましょう。
確かにお腹から声を出している、と言う表現が適切であるかのように感じます。
実際に大きな声を音階などに関係なく、ただただ張り上げるだけであれば、喉は壊しやすいかも知れませんけれどもオーケーな部分(場面)もあるのかなと思います。
しかし本当のところ、大きな声と言うのはお腹の力だけで出せているのではなく咽頭での共鳴の強さによって出せる出せないが決まってきます。
大きな声を出す、と言うだけの話であればシンプルに力を入れて声を出すで良いかと思います。
応援団などの場合は、それでも良いのかなと思います。
しかし、そこに音階が存在してくると、もしくは音階を考えて声を出さなければならない(歌を歌うなど)と言う立場にあると、腹式呼吸と共鳴のメソッドを十分に理解しなくてはなりません。
音階と言うものは、力み過ぎると声を出す場合に音が定まらないと言うことがよくあります。
腹式呼吸で発声をする時も、パワーを使いすぎてしまうと音階をとらえることができません。
適度な息の分量を、適度なパワーを考えて腹式呼吸での発声をマスターしていく必要があります。
今回は、ボイストレーニングの「お腹から声を出す」と言う事の意味ついて主に音楽的な側面からアプローチして記事を作ってみました。
音楽的に、声で音階を捉えていくためには腹部での力加減が非常に重要になってくる…これはとても重要なことなので押さえておいて頂ければと良いと思います。