今回の記事は、ボイストレーナーの方はもちろんの事、ボイストレーニングの受け手、いわゆる生徒の側に立つ人からも読んでいただきたい記事です。
それはボイストレーニングのレッスンに組み込まれている(必ず組み込まれていると言ってもいい)腹式呼吸のレクチャーの手順についての記事内容です。
腹式呼吸のレクチャーを受ける際の手順と言うのは、ボイストレーニングを始める際に一体どのポイントで腹式呼吸を学ぶか?ということを考えてみたいと思います。
そもそもボイストレーニングの目的と言うのは、大きく分ければ2通りあるかと思います。
目的1:歌唱力をレベルアップしたい。
目的2:喋っている声をレベルアップしたい。
上記の2点が、普通に考えるところの世の中のニーズです。
世の中のニーズと言うよりかは、生徒さんがボイストレーナー、ボイストレーニング自体に求めるニーズです。
目的1:歌唱力をレベルアップしたい。
まず歌唱力を上げたいと言う生徒さんの場合。
ボイストレーニングを学んだことがないならば、腹式呼吸がどういう風に歌に作用するものなのかがきっとわかっていないはずです。
そんな時ボイストレーナーは、腹式呼吸のやり方から教えることが本当に正しいのか?
もちろんそれが正しいこともありますが、必ずしも手順として正しいわけではありません。
ひょっとするとまず、歌を歌ってもらって状態を把握した上で、ボイスポジションを見つけることから始めた方が良い場合もあるのです。
ボイスポジションを見つけるにあたっては、はじめの段階では腹式呼吸は必ずしも必要なものではありません。
1音1音、音階をキーボードなどで叩いて音を出し、その音を発声してもらい、どの母音でどの音が1番よく共鳴しているかを知ってもらうことの方が重要なのです。
共鳴しているポジションを見つける、その次に腹式呼吸を学んでもらう。
腹式呼吸と共鳴と言うのは、同時に体にインプットしていかないと体の使い方のひらめきと言うのは生徒さんからすると、なかなか掴みづらいものであります。
目的2:喋っている声をレベルアップしたい。
喋りのトレーニングについてもそうです。
そもそも喋りと言うのは相手に自分の考え方などを伝えるための手段に過ぎませんから、うまく伝われば良いわけです。
その上で声が抜けると言うことがとても重要になるわけですが、声が抜けると言うことに関してだけ言えば、腹式呼吸が必ずしも必要ない場合もあります。
逆に腹式呼吸を取り入れてしまうことで(もちろん知ってもらう事はかなり重要なことですが)、その生徒さんの喋りの個性を失わせてしまうことにもなりかねません。
腹式呼吸と言うのは、体に刷り込んでいくものですから、いちど刷り込んでしまうと今度はなかなか抜けなくなります。
ですから必要な人に対して腹式呼吸を必要な分量だけ教え込んでいくことも重要なのです。
私はこれまで、数多く生徒さんを見てきました。
ボイストレーニングの経験がない生徒さんに限って必ずと言っていいほど腹式呼吸をまずはマスターしなければならないと思われている方が多いような気がします。
「気がします」ではなくて、ほぼ断言してもいいかもしれません。
生徒さんに誤解を持って欲しくないのは、声を出すことにおいて腹式呼吸が何よりもまず1番大事だと言うことではないと言うことなんです。
大切な事は、最終的な着地点がどこなのかというところをまず明確にしておく事です。
これは本当に大事なんです。
その着地点というのが目的であり、歌唱力のアップもしくは喋り声のブラッシュアップなどが着地点にあたるわけです。
そのために腹式呼吸がどれぐらい、その生徒さんに必要なのかどうかをボイストレーナーの方が見分けなくてはなりません。
しかし同時に、生徒さんもこの現実と言うものをレッスンを受ける前にまずは知っておくことも重要なのです。
例えば何かしらの病気やケガなどで病院に行く時に、患者側は当然、治すことを目的として病院に行かれると思いますが、治し方もリサーチしたうえで病院に行かれる事もあると思います。
ボイストレーニングも同様で、上達することが目標であっても、どのような方法で上達させてくれるのかをリサーチすることも生徒さんは重要なのです。
このことをしっかりと理解した上で、ボイストレーナーと生徒さんが互いにしっかり向き合っていく必要がボイストレーニング業界にはあると考えます。
さらに言うと、腹式呼吸がなかなか体に刷り込まれていかない生徒さんもよくいらっしゃいます。
そんな生徒さんに対して、腹式呼吸をマスターさせようとする事で自信をそいでしまうのも良くありません。
どうか生徒さんは自分の声に対してレベルアップすることに希望を持って欲しいんです。
ボイストレーナーさんは、その希望を削がないようにレッスンに当たらなければいけませんが、案外この腹式呼吸が最初の難関かのように生徒に伝え、生徒さんの将来の希望をそいでしまうようなトレーナーさんがいることも少なからず事実ですので、腹式呼吸が大事な事は言うまでもありませんが、固執しすぎないようにした方がいいと近年はより感じます。
要するに、ボイストレーニングを必ずしも腹式呼吸から入る必要は無いと言うことが言いたいわけですが、生徒さんがスキルアップしていく上でどのようなレッスンの内容から入るのかを瞬時に見抜くこともボイストレーナーには重要です。
そして生徒さんは、この現実をレッスンを受ける前にまずよく知っておくということが重要です。