担当している生徒が喉を悪くする前に、日頃から喉をケアさせる必要があります。
うがい手洗いは、必ず行うよう指導して下さい。
歌を歌った後や講演会などで話をした後に、咽頭(上咽頭・中咽頭・下咽頭)が炎症を起こしていても、うがいをすることによって腫れが若干治まります。
炎症は毛細血管が充血することにより起こるので、うがいのような充血を鎮める手段により一時的に腫れは引きます。
生理食塩水を使用したうがいは、さらに効果は高まります。
特に就寝前にうがいを行うと、繊毛の回復も早まり、次の日は喉の調子が良くなります。
~生理食塩水の作り方~
沸騰したお湯500mlに5gの塩(小さじ1杯)を溶かして、40℃まで冷まします。
これにより濃度1%の生理食塩水を作ることが可能。
塩が水だと溶け残るので沸騰したお湯を作り冷ますことで使用するというのが基本です。
次に手洗いは風邪の予防になります。
風邪やウィルスは、主に喉に細菌やウィルスが付着することが原因で起こります。
当連盟では一日の内で、最長でも1時間おきに定期的に手洗いをするように推奨しています(イソジンにはアレルギーを持っている方がいるので推奨しません)。
生徒に本格的に喉のケアを行わせる場合は、耳鼻咽喉科へ定期的に受診するように指示を出して下さい。
また喉は複雑な臓器です。
精神的な部分が大きく影響してしまいます。
例えば「声帯にポリープがあるのではないか?」などと考えていると、本当にポリープ(正確には声帯結節)が出来てしまうこともあるのです。
気になっている部分に精神的な負担が掛かってしまうことにより、本当に結節が出来てしまうことは多々あります。
従ってある程度リラックスさせて、ボイストレーナーは生徒へ喉の状態を考えさせることも大事なのです(いたずらに危険性を煽ってはいけません)。
しかし軽視し過ぎてしまうと、もしも実際に悪かった場合に対処が遅れてしまう場合があります。
ですので、ボイストレーナーの皆さんは、耳鼻咽喉科への定期健診を必ず生徒に勧めるよう努めて頂きたいです。
健常な生徒の場合でも自主的に、3カ月に一回程度でも構いませんので、喉の状態を耳鼻咽喉科で受診することを促して頂きたいと考えます。
生徒に耳鼻咽喉科を受診させる際は、医師へは「自分は歌をプロとしてやっている、または趣味で嗜んでいる」ことなど、立場を必ず初めに告げておくことを忘れずに。
最後に例としてよくある喉の疾患を挙げておきます。
1:風邪の場合
上咽頭~下咽頭にかけて広い範囲で炎症が起こる場合もありますし、場合によっては熱を出すこともあります。
下咽頭まで炎症が広がっている場合は、声を出してはいけません。
更に奥の気管・気管支・肺エリアまで炎症がある場合は、気管支炎もしくは肺炎かもしれないので、声だけではなく腹式呼吸などの呼吸方法の練習は厳禁です。
風邪は繊毛(せんもう)が破壊され、毛細血管が充血している状態です。
この場合、声帯も充血していることが多いため、無理に声を出せば声帯結節の原因になります。
ボイストレーニングを行う場合はリズムなど、呼気を使用しなくても可能な音楽的練習を行うようにして下さい。
2:声帯結節の場合
声帯結節というのは、喉に出来た“タコ”(ペンダコのあのタコと同じ)のことです。
声帯結節のことをポリープという方々も多いのですが、ポリープは血豆(血種)のことです。
声帯結節はポリープとは異なりますが、症状の見た目がとても似ているのでひと昔前までは一括りにポリープと呼ばれていたこともありました。
(当連盟では声帯結節とポリープは別のものとして考えを統一しております)。
さて前述した通り、声帯結節は風邪をひいて声を酷使した人によく診られる症状です。
声帯が閉じることによって声が出るのですが、その声帯に“タコ”が出来ることによって上手く閉じなくなってしまうのです。
その結果、ガラガラした声(嗄声-させい-)になります。
そうなると輪郭や芯のある声は出せなくなり、共鳴も難しくなります。
共鳴が難しくなるということは、つまり力んで無理に発声しようと身体は働きますから、マイナスのスパイラルに陥ってしまうのです。
稀に喉の強い人は声帯結節の初期段階でも歌いこなせてしまうことがありますが、気づかないと結節は大きくなりますし、声帯の左右に出来てしまう場合がほとんどです。
早期発見が大切です。
もし声帯結節になったら、結節が消滅するまでは発声をしないことが大事です。
可能であれば、完治するまで筆談を行うというのも手ですが、これは現実的ではございません。
普段の話し声もなるべく出さないようにして下さい。
もちろん電話での話し声も、喉に負担が掛かるので厳禁です。
3:ポリープの場合
ポリープとは血豆(血腫)のことです。
声帯にも血豆が出来ることがあり、症状は声帯結節に似ていますが、声帯結節とは異なり、声帯の片方にだけできるケースが多いです。
この場合ほとんどが手術を行わなくてはなりません。
ちなみに結節の場合もポリープという人がいますが、結節は全く発声しなければほとんどは自然に治ります(ただボイストレーナーが生徒に接している場合は、生徒を耳鼻咽喉科にも通わせなくてはなりません。また、完治するまでは生徒にはなるべく発声を控えさせましょう)。
ポリープも結節同様、完治するまではボイストレーナーと耳鼻咽喉科の医師とで生徒を仲介して、レッスンを遂行して下さい。
発声は控えなくてはなりませんが、喉のケアの知識を生徒に教えることもボイストレーナーの仕事なので、一概にレッスンをストップするのは良いことではありません。
ポリープも早期発見が重要です。
4:耳の病気の場合
耳の調子がおかしいと生徒が感じていたら、すぐに耳鼻咽喉科で聴力検査を受診させましょう。
例えば一番多いのが難聴ですが、音が聞こえづらい症状が長く続いたら疑いましょう。
ただ難聴は発声を生業にしている方の場合は、職業病のようなものですから難聴になるのは致し方ない部分もあります。
あまり難聴になっても精神的に自分を追い詰めず、耳鼻咽喉科の医師と相談しながら治療することが大事です。
難聴は放って置いても治ることはありません。
普段からあまり大きな音で音楽を聴かない、ヘッドホンで聴かない、耳栓を活用するなど耳への負担を軽減しましょう。
難聴は重篤になると、ミュージシャンにとって非常につらいものですが、難聴に限らず耳や喉の病気については毅然と向き合いましょう。
5:その他の病気の場合
1~4以外にも多くの耳、鼻、喉の病気はあります。
1~4に関してはボイストレーニング業界でよく耳にする病気ですので、参考までに今回はご紹介致しました。
耳、鼻、喉に違和感を持たれた場合は、あまり迷わずに耳鼻咽喉科を受診されたり、信頼できるボイストレーナーの判断を仰ぐようにして下さい。